・ 行事、スポーツ、芸能、観光等のトピックスのメディア発表に併せて
取上げられるのが、「経済効果」です。実施後の検証がされての発
表がないこともあって、あまり信用していないのが実感としてあります。
・ 例えば、公共投資が伴う場合、費用対効果は必ず求められます。我
々素人が考えても、“そんなに上手くいくはずがない”が横行していた
からです。
・ とりわけ、イベントやスポーツ関連はその場限りの面があり、予測が
大幅にズレても責任を問われることがないと云われています。いわゆ
る、“云ったもの勝ち”は拭えません。
・ とはいえ、「経済効果」は既に、市民権を獲得しているのではないで
しょうか。
・ この経済効果の具体例を示しながら、専門家の「経済効果とは何な
のか」の入門書本がありました。
言葉だけが先行しているところで、少し常識的な面の理解が必要かと
思い取上げました。
・ 経済効果は我々がよく知っているスポーツ、イベントで目立ちますが、
実用的な意義は、公共事業や投資に対する費用対効果の計算に
用いることなのです。
・ そのための測定は、短時間にできるような易しいものではないのです。
詳細なデータと適切な分析が必要になります。
・ そこで著者は客観的で一定の信用を確保するために、概ね次のような
ポイントを示しています。
1.自家薬籠の物にすることを避ける
・ 自分達の利害関係者に予測を依頼し、期待に沿った計算結果を
導きだしてもらうことは、ままあることです。従って、利害関係のな
い第3者となるシンクタンクや研究者に計算を依頼することです。
2.データ集めを怠らない
・ 詳細なデータ集めに始まるが、その多くのデータを適正に計算し
ているかどうかも重要になります。いかにも付け焼刃的なやり方
を感じるような大きな(小さな)数字の発表は、疑問視してよいの
です。
3.検証
・ 予想と結果との検証が今後の同様の経済効果測定に大事な点
です。民間の場合、予想が大きくズレると責任問題になりかねな
いので、次の投資を成功させるためにも必要な手続きなのです。
そして、その比較が少なくとも関係者に知らされていることです。
・ さて、一般的に取上げられる「経済効果」は、「経済普及効果」を含
めての次の合計です。
1.直接効果
・ イベント等により、その地に消費されている交通費、みやげ物、
入場料、飲食、宿泊などがこれに当ります。
2.一次効果
・ 飲食した場合、その原材料等を提供している会社、店舗などの
売上が増加する波及効果があります。
3.二次効果
・ 1、2によって経営者、社員等の所得が上がって、その内一部
を消費に向けると考えての波及効果があります。
・ だから、ある地域で行事による経済効果10億円との発表は、波及効
果を含めてのということです。
・ それでは、著者の扱った多くの事例の中から、少々旧いですが2003
年「阪神タイガース優勝の経済効果」をみてみます。
これは他のチームの優勝のシンクタンク等の予測数字があるが、そ
れをはるかに上回る空前絶後と云ってよいほどの効果だったのです。
4.直接効果
・ 優勝直前の阪神百貨店前のタイガースグッズ売り場で、
・いくら買いましたか ・どんなグッズを買いましたか
・今年は何回こられましたか ・阪神ファンですか
・どちらから来られましたか ・優勝セールに来ますか
・セールの買物予定額は
などを数百人に質問し、回答から予測しました。この時のグッズ
関連購入は、平均18,000円位でした。近畿圏以外の人が大
勢いたことも加味しました。
・ 同様に、尼崎商店街、尼信金のキャンペーンなどからデータを集
めました。他にも多くの直接効果のデータを集めました。
・ これを整理すると、主に次のようなことがあげられます。
・観客数増加 ・優勝セールの直接販売商品等
・飲食飲酒増加 ・阪神グッズの売上
・放映権、広告宣伝収入増
‥‥‥
・ そのうち、飲食飲酒消費が最も大きくて416億円あり、計917
.2億円と計算されました。(2005年阪神優勝時は376億円)
・ 他チーム優勝をみると、2004年中日ドラゴンズ203億円(共
立総研)、2007年読売ジャイアンツ418億円(日興コーディア
ル)であり、いかに最下位から急上昇しての優勝が大きいかが
分かるのです。
・ なお、阪神優勝の直接効果をその12月に関西社会経済研究
所が多方面への聞き取り調査等に基づいての発表は、935
億円であり、著者達予測と近い数字でありました。
5.経済効果合計
・ 直接効果 917.2億円
第一次波及効果 1209.3億円
第二次波及効果 272.0億円
(波及効果計 1481.3億円)
合 計 2398.5億円
・ 波及効果は、平成7年版「近畿地域産業関連表」を用いて計
算されました。
*「地域産業関連表」
・各種経済波及効果の測定等に利用されている。
・各産業部門の1年間の全ての財、サービスの生産、販売の
実態を記録したものであり、取引の実態を表す。
・この各種係数を用いて分析を行なうことにより、将来予算、
効果測定等が可能となる重要な基礎資料になっている。
・ いずれにしても、こうして見ていくと結構面白いものです。企業は投資
の実績が非常に重要視されます。公共事業は税金のムダ使いとなら
ない精密な予測と検証が要求されます。
・ 「云ったもん勝ち」の経済効果予測は、その傾向が続くと経済学的に、
社会的にも信用を失う恐れがあるのです。