・ エコノミスト小峰氏のコラムで、「経済成長は7難を隠す」として見事に整理
され、我々素人にも分かりやすく“脱成長”に対して疑問を投げかけていま
した。
・ 彼の所属する「日本経済研究センター」は昔から、他のシンクタンクより高目
の経済成長予測を出し続けていることは、周知のことです。
・ 日本経済が苦しい状況に追い込まれても適用力が高く、その変化に応じて
再生してきたという事実がバックボーンにあったからと云えます。
・ しかし、どうも最近の財政再建、社会保障改革、政府の政策そして少子高齢
化問題を考えると、首を傾げざるを得ないと云っています。
・ そこで、「経済成長」を1つの切り口として、いくつかの注目点を教示したコ
ラムに共感を覚えるところが多かったので、取り上げてみました。
・ 最初に、経済そのものの成長には、どんな意味があるのでしょう。
経済成長の最終目標は人々の生活を豊かにすることであり、そのために
経済政策があります。
政策は、次の3つの達成を目指します。
1. 持続的な経済成長
2. 雇用の確保
3. 物価の安定
・ ところが、経済成長への疑問を投げかける次のような議論もあり、メディア
が取り上げています。
◆脱成長論
・ ブータンのような幸福論があってもよいのではないか。
地球環境の観点から経済成長は難しいのであって、無理な成長政
策は必要ない。
◆財政再建との関係
・ 経済成長は税収を左右するため、決定的に重要である。だから、税
収の一方である消費税は経済成長率の引き上げによって決めるべ
きである。
◆人口減少
・ 人口減少は間違いなく内需減をもたらし、経済成長はマイナスとなる。
だから、輸出しか方法はなく、それを伸ばすべきだ。
・ 経済成長は「GDP」(国内総生産)で計るのが普通です。そして、「3面
等価の原則」を仮定として見ていくと、分かりやすいと云われています。
・ すなわち、単純化すると、生産(供給)、支出(需要)、所得の3つは等しい
というものです。
例えば、200万円の車を生産し、それを買う(支出)うと、支払われた200万
は誰かが所得として受け取るはずであるということです。
・ つまるところ、成長率が高まると生産、支出、所得も同じ様に増えるというこ
とになります。
そうすると、結局次のような良い面が出てきて、まさに7難を隠してくれるの
です。ただ、あらゆる事に優先して、ひた走ることではありませんが。
(1)一人ひとりの所得増
・ 単純に考えるとそうなります。ある学者が“これ以上成長は必要ないという
人は、自分の所得を喜捨してから云ってほしい”と極端ですが、云ってい
ました。
(2)雇用機会の増大
・ 経済の低迷、構造改革の停滞は十分な雇用機会を生みません。そして、
その調整は若年層に向き易いのです。
(3)国内需要増
・ これこそが、国民生活水準の引き上げとみることができます。震災で萎
縮するより、どんどんお金を使ってほしいという主張は、そのとおりなの
です。
(4)投資(国内需要の1つ)
・ 消費ではないが、住宅、社会資本、教育などへの支出は将来の成長を
高め、生活を豊かにします。
(5)構造改革の円滑化
・ 時代の変化に合わせて産業構造などを弾力的に変えていく必要がある
が、その時に成長率が伸びていると、衰えていく産業の資源(人、金)
を吸収する形で変わりやすいと云われています。
(6)社会的摩擦軽減
・ 全体の所得が拡大すると、あまり所得格差を声高に云う人は少ないが、
ゼロ以下成長では誰かの所得増が誰かの所得減という形で格差が大
きくなりがちであり、不満も大きいでしょう。
(7)税収増
・ 成長率が高ければ税収が増え、財政再建がやりやすいのは当然と云え
ます。
・ それでは、近年の経済成長率をちょっと悲惨な年平均名目成長率でみると、
1987〜97年 1998〜2004年 2005〜11年
日本 3.8% ▲0.7% ▲1.2%
米国 5.8 7.3 5.0
独 5.2 2.7 3.3
英 6.8 7.6 4.6
OECD平均 8.7 7.8 5.0
・ これでは成長のメリットを享受する度合が、大変小さいと云わざるを得ま
せん。
・ 賃金はほとんど上昇せず、就職難であり、生活水準の高まりを実感できて
いません。
金融機関は金余りと云われるが、国内投資活動の動きは鈍く、経済構造の
変革もすすんでいません。多くの人が格差に敏感となり、国は巨額な財政
赤字を抱えたままです。
・ 以上のように低い成長で日本は大いに苦しんでいるのだから、脱成長がど
んなことになるかは明白であると云っています。
・ 成長がもたらすメリットは十分分りましたが、素人的に考えても本当にGDP
を高める効果的な政策は実行できるのだろうかの疑問が大きくあります。
・ よく云われる公共投資ひとつにしても、米国の昔の「ニューデール政策」が
成功例にあげられますが、第二次世界大戦で景気が戻ったのであって、
上手くいったとはいえないと云われています。
・ また、生産拠点を海外に移す勢いは、決して衰えていません。
製造業海外生産比率 2010年実績 2000年実績
輸送機械 39.2% 31.1%
情報通信 28.4 21.9
汎用機械 28.3 12.1
全 体 18.1 13.4
・ 格差云々より個々の所得が伸びていない中で、消費が引っ張るまでにいっ
ていません。このような現状をそう簡単に政策で打破できるのかの不安を
強く感じるのです。