「聞く力」

 「聞く力」新書版)は、阿川佐和子のベストセラーです。
  昨年1月以来売れ続けており、秋頃には30万部と云われていたのが
  あれよあれよという間に100万部以上売れていると記事にありました。
 決してビジネス向けのハウツーものではなく、内容は自分のインタビ
  ューからのエッセーに近いため30〜50代女性にも多く読まれて
  いるそうです。
 彼女の58歳の年齢を感じさせない新鮮さと素直な感を持つ文章です。
  インタビューにおける受け答えは肩ひじの張らない、威張らない
  ャスターでもあり、才能の豊かさが窺えます。注目してよい1人です。
 父親の阿川弘之にある人が、“そのうち、阿川弘之の娘と云われる
  ことから佐和子の父親と云われそうだね。”の感想を述べていました。
  段々、そのようになってきたように思います。
 壇ふみとの親交はよく知られており、そのやり取りを綴った「ああ云
  えば、こう食う」との本もあり、熟女の本音の掛け合いは大変面白か
  ったことを思い出しました。
 ここまでのベストセラーとなったのは、まさに人生の熟練と呼べる先
  生方や専門家を女性ならではの方法で手玉に取るような発言に対し
  多くのファンがいたのでしょう。
 「聞く力」はインタビューでの具体的な相手とその状況を示しながら、
  そこからの実践をうたっています。それがほとんど失敗したことの中
  の教訓として、聞くことの大事さをを訴えているだけに、読みやすく、
  受け止めやすい感がします。
 本人も、どちらかと云えば自分は話しすぎであり、聞き上手ではない
  といっているだけに、逆に説得力があるのかもしれません。
 会社の上司、同僚との意見交換等も同じで、“この人に話しておきた
  い”“この人と語るとスッとする”“話してよかった”“楽しくなる”などと
  思える聞き手のヒントが多くあります。
  周りの人との「良い人間関係」を築いてもらえばと云っています。
  その通りだと思います。
 本のサブテーマは「心を開く35のヒント」ですから、普通に参考に
  すると云ってもちょっと多いと思います。
  そこで、自分なりに少し選んでみました。それでも、3回位に分けて記
  してみます。
(1) 聞き上手とは
  コミュニケーションの場面で、ハウツー本などは「聞き上手」が
   須の条件であると応えています。人間が孤独から逃れるには誰か
   と話をして、それを聞いてもらうことが始めになります。
  そして、聞き上手は相手の話に合わせて頭の整理をして応え、気
   持をそこに重ねての聞き方に努めると、“聞いてくれて、ありがと
   う
”なります。
 1.面白そうに聞く
   適切な質問をして、ビシバシ相手の反応に合わせて話を進めてい
    くいわゆる会話の名人のような人がいますが、そんな人はめった
    にいないのです。
   結局は、“そう、それで”“面白いですね”“それから”と一言を挟む
    だけで、グチであっても楽しく聞いていくこと(“聞いてあげる”で
    はない)を忘れなければよいようです。
 2.メールの会話
   近時、社内でもメールの会話(記録に残す利点有)が多くなりま
    した。しかし、別の部署や違う階の人でも、その相手と対話する
    ことで表情や動作から事情が分かったり、普段と印象が違うこと
    から困っているのだななどが見えてきます。
   だから、メールに合わせて一言声を掛けるのが「聞くこと」への
    上達階段を少しずつ登っていくことになるのだと思うのですが。
 3.しゃべりたい
   社会人男性の金言に“余計なことをしゃべるな”があるようですが、
    大間違いになりつつあります。「聞き上手」な人は、「しゃべり
   (話)
上手」
なのです。
   1人で住んでいる人と会うと、普段あまりしゃべらない反動で、しゃ
    べりの集中砲火をあびせる人がいます。このような極端でないと
    しても、よく分かります。
   阿川さんのように、相手が“質問の仕方が上手く、あんたの顔を
    見ていたらいつの間にかベラベラしゃべっちゃったよ、楽しかった”
    と云われれば、一流なのでしょう。
   しゃべりたくなった、しゃべりたい人には、聞くしかないのです。
    それだけで、相手は十分満足することが多いのです。
 4.聞く手段としての質問
   話をしなければ、聞けないのです。友人などは黙っていてもとい
    うより、どちらかともなく会話が進みます。しかし、普通自分からの
    誘い水により多くしゃゃべってもらい、それを聞くことが大事
    のは云うまでもありません。
   そこで、あるアナウンサーの著書に、「インタビューするときには、
    質問は1つだけ用意しなさい。」があったと云っています。まさに、
    目からウロコだと思ったそうです。
   質問する、答えが返ってくる、その中に何かを見つけて次の質問を
    するの繰り返しで話が進展していくと云うのです。
   インタビューでなくとも、我々が答えやすい、分かりやすい質問をし
    て、話をキチンと聞いているという態度(目線1つで疑心暗鬼になる
    こともあるのです)が、お互いしゃべること、聞くことへの安心感
    生むのです。
 5.あれ?
   相手の今置かれている立場や健康状況などから、最初は当り障り
    のない会話でスタートします。しかし、会話が進むと横に逸れて、
    “あれ?”と思うことが出てくる時があります。
   ただ、これを少し掘り下げて聞いていくと相手の話が次第に拡がっ
    てくるが、聞く方からすると一連性が出てきてためになることが聞け
    ます。あまり話を押さえることはしない方がと思います。
 阿川さんはどうしてもインタビューをする上でのパターンから、聞き上
  にならないと良い材料が拾えないいために、そのポイントを記述
  されています。
 しかし、我々の会話、対話において“かまえる”ことなく上手に進めてい
  くポイントをよく捕まえているように感じました。
 「聞き上手とは」の項には他に“段取りは完全に決めない”“事前準備
  はほどほどに”などがありますが、インタビューアとしての心得中心な
  ので、除きました。〜続きは、次回にします。