質素な蔬菜(そさい)料理であった精進料理が、
◆その内包する意味や作法の今日的意義
◆どのように豊かでおいしく発展したかについて専門家2人の講話があり、
その簡潔な語りが分かりやすく記されていたものがあり
ましたので、紹介します。
1.感謝の心
- 精進料理は禅と共に発展してきたと云ってもよいと思います。禅の修行は座禅や経典の面だけでなく「食べること」「料理をすること」「掃除」などの作務、すなわち日常生活全てが修行と云えます。
- 昔、百丈禅師と呼ばれる禅僧が「一日働かざれば、一日食わず」と、作務をしなかった日は何も食べなかったと云われています。
- 働かなかった日は、人の供養を受けてはいけないとの思想を表わすのです。
- 料理は食べる人、作る人、育ててきた人も含めて、それぞれが相手のことをおもんばかることであるそうです。
- いかに人や自然への想像力を働かすことが「修行」であり、そこに”感謝の心”がなければならないと云っています。私にはとても難しいの感はありますが、まさに日本食の在り方を示しているのではないでしょうか。
2.精進料理の発展、価値
- 平安時代、精進ものとは粗末な蔬菜(そさい)料理という意味でした。その後、蔬菜料理にコクを出す工夫として”油濃き茹でもの”である油の使用が登場しており、「煮る」「茹でる」調理法が発達して云ったそうです。
- すなわち、「焼く」主流から、鉄鍋の出現により煮物文化が生まれました。
- 平安末期は中国・宋との貿易が盛んになり、禅を通じて最新情報がいろいろと入り、食にも大きな影響を与えました。その1つが「石臼」(いしうす)です。
- それまでの主流「搗く」(つく)から、殻の堅い小麦粉を粉にしていくことが出来、麺が生産されました。鎌倉時代は小麦文化が発達して大豆の文化も生まれ、豆腐や湯葉などもできて、精進料理を豊かにしていったのです。
- 江戸時代には精進専門の料理屋が登場しました。有名な黄檗山万福寺に伝わる中国の精進料理「普茶料理」が影響を与えたと云われています。皆でテーブルを囲む「卓袱台」(ちゃぶだい)がもたらされ、平等に楽しく食べる意識が生まれて、さらに多彩で開放的な精進料理へと発展していったのです。
- 精進料理の思想や理念となっている生き物の命をとらない、そして野菜なども本来の価値である「勿体」(もったい)を生かしきることが大切であると云っています。持続的な食生活を送るうえでのテーマとして示唆されたような気がします。
- 和食が世界遺産になったことは、禅にあるように料理を作ることは重要な行であるという思想が料理人ばかりでなく食する人の心の向上に繋がれば、よりよい食文化として注目されるのではないでしょうか。
- 精進料理は健康に良いと共に命をいただくという感謝の気持ちを持つ食文化と云えます。このことは、現代社会にあって大いなる可能性と肝要さを持つ食文化なのでしょう。
- 精進料理の献立をみてもその美しさ、工夫などに感心します。そうはいっても、日本料理でも多く入り込んでいる肉類、魚類などがなく、頼りなさを感じます。
- 新たな世界の日本料理が創作されていくうえで、精進料理の考え方や価値を踏まえていれば、日本の食文化への多彩な貢献と新興になっていくような気がします。