年功序列

 近時は本格的な書物、専門書を読了するのが、しんどくなりました。
  コラム、エッセイやセミナーなどいろんな分野の豆知識や興味のあ
  るテーマが中心になっています。そこでも“雑学”程度にしか吸収出
  来ない自分がいます。
 ただ、短い表現、語りだけに、中身が詰まっていることが多いのです。
  テーマに向けて目的と結果が明確で、分かりやすいと云えます。
 さて、以前から注目していて、時折ここで取上げているコラムニスト
  が、またまた面白いテーマを解説していたので、まとめてみました。
  それは、「年功序列」です。
(1)年功序列の崩壊?
  「年功序列」「終身雇用」「企業内労組」は1セットとして、日本企
   業の高度成長の3本柱と云われてきました。
  だから、その中の1つだけを取上げるのは片手落ちなのですが、そ
   れだと長々とした焦点のない話になるので、ここに焦点を当てたの
   でしょう。
  さて、今や殆どの会社は成果主義、能力主義を標榜しており、甘
   い時代は終わって「年功序列」は高度成長期の置き土産のような
   云い方さえしています。
  トップ対談等をみていても、“若手にチャンスを与えている”“変革を
   求めている”“部下が上司になることだってある”などいかにも年功
   序列が崩壊したような発言が多いようです。
  求める人材に対しての要望はそうなのでしょう。年功序列がその
   害
になるとして声を上げているからなのでしょう。
  若い会社や平均年齢の低い会社は、そうと云えます。しかし、多くの
   会社は昔のような年功序列はなくなったかもしれませんが、欧米の
   ホワイトカラーのような成果主義にもなっていないのが実態かと思
   います。
   コラムニストも、今は“移行期”という表現をしています。
(2)経団連の提言
  昨年末、日本経済団体連合会が「定期昇給制度(定昇)」の見直し
   提言を行ないました。その具体的な案として、
   仕事、役割に応じて等級を設け、賃金水準の上下限を決める。
   暫定措置を講じながら、個々人を再格付けする。
   仕事、役割が変わらない限り、上限で昇給がストップする。
  その仕組みを提示し、今後の課題として労組と見直し議論を始める
   ことを考えています。同じ仕事内容なら、給料は自動的に上がりませ
   んよと。
  会社の若手、とりわけ働き盛りの30代は、“たいしたこともしなくて役
   職に就いている”“上司より我々の方が一生懸命働いているが報酬
   は逆”などの不満があるようです。
  このように、トップ、若手双方から年功序列の弊害が云われているが、
   本当にそうなのだろうかの疑問が生じると云っています。
(3)経験による充実感
 1.成長が実感できない
   グローバル化はいろんなプロジェクト等若手に任せないと対応で
    きなくなり、抜擢されて年功序列に風穴が空いてきています。
   グローバル化が進んでいくことは確かですが、仕事はそれが全て
    ではなく、通常の勤務に戻ると“おまえは分かっていない”で片
    付けられることも多々あるのです。
   これを整理すると、年功序列は「成長が実感出来ない」ことにな
    って、もっと客観的な、正当な評価をしてほしいのです。
    これが、ストレスを抱えている人達がもらす言葉だそうです。
   普通、若手は仕事を1つ覚えるだけで自らの成長を実感することが
    でき、次から次へと新たな仕事に取り組み、「働くこと=成長」
    成り立っています。しかし、低成長で中堅になっても成長を味わえ
    ることが少なくなり、上への不満として出てきています。
 2.経験からくる成長
   日々見える課題の取り組みは、成し遂げたという充実感、成長は
    ハッキリと感じ取れます。ただ、少し長い目で振り返ってみると、
    “あの時、成長したんだ”と今から思えばの成長もあるはずです。
   粘り強く頑張って得られたものは、次の仕事の糧になっています。
    それが“経験なくして、実力はつかない”と思う人の感覚です。
   このようなことが当っている面があるからこそ、年功序列を全面的
    に否定できないと云うのです。“若い時はへなちょこだったのに、い
    つの間にかこんな大事な仕事もできるんだね”です。
   働く人の成長は、長い目で見た投資と考えると、年功序列も高度
    成長期に十分成立したのです。それがロイヤリティより大事だった
    のかもしれません。
   すなわち、経験による能力開発があり、それは時間を掛けないと
    手に入らないのです。優秀な人でも、時間という変数なくして経験
    は積めないのです。
   その力思わぬ時に発揮される要因でもあります。また、質的向
    上を伴い、安心感のある仕事となることも見逃せません。
    *ノーベル賞学者の田中耕一氏は、次のように云っています。
      “実験の反応にノイズが出た時、ただのノイズと見過ごすのか、
       何か重要な意味を持つのかを見極めていくには、長年の経
       験がものをいう。”
(4)年功序列のジレンマ
  自分はこれから会社の中でどうなるのだろうとの成長側面ばかりに
   目を向けるだけでなく、そこに踏ん張り続けて経験を重ねることによ
   る「力」をつけることも必要なのです。
  スピード、ムダの削除、成果第一にスポットが当りますが、一方で
   時間を掛けた、目に見えない成果(能力)も理解しなくてはならな
   いような気がします。
   そこが、年功序列廃止までに至らない実態の裏にあるような気がし
   ます。
  そうはいっても、金属疲労を起こしている昔の年功序列そのままで
   はダメであることは明白です。
   しかし、全員に一様なチャンスを与えることは出来ません。
  従前より企業は職能等級制度を持ち、等級レベルに合わせた業績、
   能力の人事評価を実施しています。しかし、その運用が年功的だ
   ったのです。
  低成長期に入り、どこの会社も総合職、専門職、現業職など選別
   できる複数コースを設けたり、目標管理を導入して評価の客観性
   を高める工夫を続けています。年功一本で運用している会社はな
   いと云ってよいでしょう。
  そこに早期人材育成や抜擢人事を組み込んで、さらに社員が組
   織を引っ張る人材となるための経験を積ませ、育てていくパターン
   を長期的観点からの制度として必要なのです。
  これは大変難しい作業であり、グローバル化の中での変遷はある
   かもしれませんが、この軸の大切さを失わないことが肝要かと思う
   のです。