企業の災害対応

 3/11まで、メディアは大震災と当時の状況を振り返り、関連する多くの課題
  そして、今後の姿への議論等が盛んでした。今はちょっと落ち着きましたね。
 改めて、大震災が与えた打撃に「頑張ろう」「絆」という言葉だけでは片づけら
  れないことをみせました。また併せて、多くの問題を含んでいて、簡単に復興
  を語ることが出来ないほどの複雑さを認識した次第です。
 ただ、企業がリスクにどう対応していくかの話題は少なかったような気がしま
  す。今更そんなことを取り上げるニュース性はなかったのかもしれません。
  現実に起きたことに対し、そこからの苦労した経験を新たなリスク管理に加えて
  の構築をしており、それを外に見せるものでもないからでしょうか。
 昨年10月、「リスクマネジメント」表題でIBMの実例コラムを紹介して、

  そのポイントをまとめました。
  今回、企業トップのそれの対談がありましたので、内味は重なりますが再認識、
  “おさらい”の意で取り上げてみました。
(1)リスクマネジメント
  経験から学んだことに対する備えは、ほぼ出来ていると云えます。
   しかし、今回のような想定以上のことは従業員の被災、インフラストップ、

   部品調達不可、物流停滞などが重なると、どんな人でもパニックになります。
  そうすると、対応は不十分と云わざるを得ません。それを踏まえての準備、

   予防の必要性を感じても投資面から対処は困難で、現状復帰プラスアルファ

   で終わってしまいます。
   (津波予防に100mの防波堤は現実的でないのと似ています)
  痛い目に遭うと、それを理解して現場中心に取り組むべきものは、案外進展す
   るものです。しかし、必ず現場だけでピックアップ出来ないことは、客観的、

   俯瞰的にみるとあるはずです。
   それをトップマネジメントの問題として捉えることがなくてはなりません。
  そして、実際に起きた事故や災害にはリーダーの資質、役割のみに寄りかかる
   ことなく、何が起きているのかを見極め、即座に判断し、的確に指示できる

   仕組を作っておくべきです。いかに被害を小さくするかがポイントです。
  1. 対策本部が即立ち上がるようになっていること
    しっかりした事務局(そこのリーダーと要員体制)は必須です。その役割

     を明確にして周知させ、被害内容等を一極に集中させることと対策を提言

     できる重要度を持つことです。
    阪神淡路大震災で経験しましたが、各事業部が自分達の行動を決めていこ
     うとするためにそれぞれ現地と連絡をとり、また現地に行こうとしまし

     た。
    現地はそんな余裕はなく、迷惑に近いのです。だから、情報窓口一本化
     指示命令の一元化は必須と云えます。
  2. 情報と事実関係
    現地情報が刻々と入ってきてそれへの応答を考える場合、「事実」が軸

     なくてはなりません。憶測や思いが入りがちであり、判断を誤らせること

     があると思います。
     結果、“オマエが、そう云ったではないか!”とならないように。
    日本企業は現場が強いので、現場でなんとかしようとします。被害が大き

     いと現場の落ち着いた行動は難しく、末端だけの解決に奔りがちです。
     やはり、現場をよく知る本部要員でもって客観性を保つことも必要です。
    簡単な仕組みでよいので、普段各現場から小さな事故、被害等の発生

     都度、トップに伝わるようにすべきです。
    この小さな積み重ねがあると、大きなものが発生してもアタフタしなくて

     適切なコミュニケがとれ、ブレが少なくてすみます。
     (何もなくても、“今日は何もありませんでした。”の伝達をします。)
(2)「つながり」の重要性
  サプライチェーンの寸断で原材料、部品等の供給が止まり、多くの企業が困窮
   しました。お互い助け合って成り立っている、この「つながり」を強く感じた

   と云っています。
  コスト、在庫を少なく、時間短縮、運送効率化等を形成してきたサプライチェ

   ーンの仕組みは有効です。
   しかし、今回有効でない時もありうることが分り、もっと左右、上下に人、

   物、情報等への目配りをして、イザと云う時の支援体制を考慮しなくてはなり

   ません。
   在庫を持つことでの効率化も考えねばなりません。
  1. 互助の標準化
    昔労働運動盛んな頃、同業が生産を肩代わりして乗り切った業界があった

     と聞きます。さすがに、現在に当てはめることは難しいと思いますが、

     それに近い考えを共有することは可能かと思います。
    例えば、トラック、車両等の総合供給協定を結び、業界としての余裕

     (のりしろ)の部分を少しづつ、あちこちで作るとイザと云う時にある

     程度カバーできます。
    すなわち、相互の仕組みとしての標準化を図ると、工夫によっていろんな

     ことを多義的、多能的に捉えられます。ただ、大手のムダのところを、

     中小に押し付けることになってはいけませんが。
  2. 今のやり方でよいのか
    サプライ面だけでなく、デマンドからも見ていく必要があります。
    日本の強みは社内の信頼関係のうえで、部品、モジュールのすり合わせ、

     調整をして質の高いモノつくりです。しかし、コンシューマ的製品は近

     年、世界中から安いものを買っての組み立て型が加速しています。
    この場合、部品共有が多い製品は、リスク分散が働きます。リサイクルや

     リユースすることができるためのりしろが拡がり、新製品開発も開発から

     それを想定すれば、調達の幅が拡がります。
     そして、サプライとの循環というモデルが出来るとよいということです。
    日本の中小の強さは、世界トップクラスと云われています。今回の震災は

     更に、中小の価値、存在感を高めました。
     ただ安く早くの発想ではなく、一緒に生産性を上げる努力の継続と、網の

     目のようなネットワーク関係を構築することが問われているのです。
 以上、対談はいろいろな課題の一部を取り上げたものであり、実際企業がもっと

  もっと分析、検討、実施していることは云うまでもないでしょう。
 大震災は職場の小さな問題や上への批判など、普段気付かない見方、情報に触れ
  ることになりました。
  発生当時はそれへの解決活動は出来なかったと思いますが、これらを汲み取って

  しいリスク管理に少しでも反映させていくと、まさに「変わった」が伝わるの

  です。
 今回の経験から学んだことを知る“あかし”は、“変化”したことでしか見えないの
  です