「羽生善治」の適応力

 仕事の手法、ポイント等については、多くの特集やコラムがあります。その中心
  にあるのは、どうやら「知らないこと」を教えてくれるというより、「当り前の

  と」や簡単なことをキチンとどう実行するかが強く打ち出されています。
 反面教師的にみると、それだけ当り前のことを当り前に出来ない難しさを云
  ってくれているのかもしれません。
 ということは、たくさんあるやり方等から自分に合いそうだなを感じて、いかに
  継続的に、成果が出るまでやり遂げるかにかかっているような気がします。
  雑学で終わってはダメなのでしょう。
 ところで、天才と云われ続け、いまだにトップを走り続けている棋士「羽生

  善治」2冠(王位、棋聖)の昨年発刊された本があります。
 彼は、1996年に初の7大タイトル独占の偉業を達成しました。若手時代は、
  その絶妙な勝負手が「羽生マジック」と呼ばれ、恐れられてていました。
 40歳代に入ってなお、その強さを維持していることに、驚きを隠せません。
  本の内容は彼だからこその奇抜な、ハデな、唸らせるような活路を見出し、紛れ
  もない道筋を示しているわけではありません。
 「天才」とはうらはらに常識的な、当り前のことの連続を実行しているのです。
  その中から、気楽に受け止め、“なるほど”と思う方向性のある文章を2つ取り
  出し、整理してみました。
(1)「豊富な経験」をどう伝えるか
 ◆経験が知恵と精神力の源泉
   たくさんの時間と労力を費やして築き上げてきたものに、知識と経験があ
    ります。
    それなりの知識がなくてはどんなことが重視され、どう向かっていくかの

    概略さえ分りません。
   そして、経験を積むことによって、ケースバイケースやポイントを見極めて

    いく対応する力、精神力が付いていくのです。
    チャンスに強いのは若者で、ピンチに強いのはベテランがその傾向にあると
    云いますが、経験をよく表していると思います。
 ◆内容の重視
   営業は結果がハッキリ見えて、それが評価の中心になることは間違いありま
    せん。いろんな事象や活動を踏まえての自己責任の結果であり、言い逃れ
    し難いのです。
   ところが、長期的に見て着実に前進していくことを確保するには、内容を

    重視することです。
    その重視は必ず新たな問題、異なった課題がみえてくることが多いのです。
    見過ごしてしまいそうな局面や大きな変化のキザシが分ったりするもの

    です。
 ◆「直感」を生かす
   物事を最初に捉えるのは、「直感」でしょう。それが案外当たることがあり

    ます。
    職人技は毎日の繰り返しが匠の技となり、瞬間的な直感の素晴らしさが発揮
    されるのです。
   日常の生活でも熟慮して何かを決めることは、それ程ありません。今までの

    経験の中での小さな選択の連続が、それを磨いていくのです。
    ただし、上手くいかない場合、反省なしでは同じことの繰り返しになりま

    す。
 ◆正確性を上げる
   仕事の最初は“習うより、慣れろ”です。理屈は後からくっついてきます。

    しかし、基本的な型、手順などがなくては少しズレても分らず、次第に

    大きなズレとなって手遅れを招きます。正確な対応は、慣れだけではダメ

    なのです。
   仕事は基本を押さえたうえで、ベストの選択は相手の立場になって、相手の
    価値観に沿って考えることが大切であると云っています。なかなか難しい

    ことなのですが。
 ◆集中と気配り
   きめ細かい心配りは“気がきく人”として重宝されます。しかし、集中しな

    ければならない肝心な時にまで、周りを気にしてしまいがちです。使い分け

    難しようです。
   周囲のいろんなことに振り回されるのが普通ですが、とくに集中は助走

    必要であり、急に一点に全力とはいかないようです。
    また、上質な気配りはさりげない、自然な行いになると云います。
(2)「変化の波」への対応
 ◆記録を残す
   仕事で肝心なところ(軌跡)は、やっぱり書いて残すのが一番のようです。

    (量的情報はデータベースとして保管)
    なんのことはない、それによって仕事を覚えていきます。また、あとで振り

    返る時にも便利です。
   ただ、手間が掛かるので、ムリをする必要はないでしょう。メモを一歩進め

    た程度の内容が、気楽に書けると思います。
 ◆あと一歩!
   とても惜しい時に“あと一歩あれば”との表現があります。
    ベストを尽くして少し足りなかったが、そうなのです。変化に対応出来なく

    ての一手遅れは、残念ではないのです。
   一歩、一手を大切にする心掛けによって、小さな変化に気付くことが結果を

    左右することはよくあることです。そうすると、日常以外の変化の動きにも

    “出来る”ようになるのだと思います。
 ◆他者との違いと変化
   将棋に似た勝負事は、他の国でもけっこうあるものです。チェスは序盤から

    激しい戦いになりやすいが、ドロー・オファー(引き分け提案)がありま

    す。
   このように、他者との違いが分かって自分の魅力や課題が分り、そこから

    仕事の進め方、変化が見えてくることもあるのです。
   通常変化も自発的に自分が変わるというより、外側の環境が変わってきたの

    でそれに合わせざるを得ない面が多い気がします。
   変化に対応するといっても、いざ具体的になると戸惑ったり、立ち止まった

    りしてしまうケースがあるでしょう。だから、他者との違いからのアプ

    ローチもよいような気がします。
 ◆小さな目標を持とう
   目標があればそこに向って前進するという行動が明確になり、迷いも少なく

    なります。しかし、その達成を考えてガンジガラメのケースになりかねませ

    ん。
    とくに、組織目標などは、限界を設定しているようにも思えます。
   どちらかといえば、ハードルが越え易いちょっとした目標、バリエーション

    のある小さな目標の方が、現実としてプロセスが見えて受け入れやすいもの

    です。
   そして、次第に達成を重ねていくうちに、身の丈に合ったものに取り組む

    ようになるのではないでしょうか。
 ◆体感するから楽しい
   旅行で地図を見るのと実際に行くのでは、大きな違いがあります。灯台下

    暗しもあります。
    毎日の仕事でも、簡単に見えて実は多岐に亘る変化を伴っており、やって
    みないことには分らないことが多いのです。
   知っていることでも、体感することにより大きな理解となるのです。何で

    こんなことが解らなかったのだろうとか、油断していたことが明らかに

    なってくるのは、経験して体感するのが一番なのでしょう。
上述した項目を考え、自分なりに実践していく段になって、
    「そのうちに」が入ると、「いつまで」という日付の入らない目標、やり方

    となり、実行されません。
    「やらない」と同義語になるかもしれませんね。