・ 昨年6月下旬、「平泉」と「小笠原諸島」が「世界遺産」に登録されました。
多くのメディアが報道し、記憶に残っているところです。
・ いつも通り、観光客が急増していますが、平泉が東北全体のチャレンジの後
押しになればと思いました。
・ この決定は本部のあるパリのユネスコ本部での喜び、メディアの言動から、
日本の世界遺産人気の高さを表していました。しかし、奇異に映る風景と現地
では受止めているようです。
・ そこで、今年40周年を迎える「世界遺産」についての特集記事がありました
ので、改めてどんなことなのかを簡単に整理してみました。
(1)世界遺産
◎現在登録936件……日本16件。毎年増えており、ほどなく1千件を超える
と云われています。
◎カテゴリー…………文化遺産(最も多い)、自然遺産、その両方を兼ね備えた
複合遺産。
◎登録基準……………10件ある基準のどれかを満たし、「顕著で普遍的な価値」を
有するもの。
ex:人間の創造的才能を表す傑作
たぐいまれない自然美 など
◎特徴…………………第二次大戦後に建てられたシドニーのオペラハウス、はたま
たコーヒー農園などの景観、モダニズム建築の近代工場など
歴史を刻んだ城等の文化財ばかりではなく、広い視点での評
価です。従って、日本人的な感覚からすると、“オヤッ!”
と思うものもあります。
◎運動展開……………今、日本の自治体で積極的な登録運動をしているのは、「佐
渡の金山」「富岡製糸場」「富士山」「鎌倉」などがありま
す。
(2)趣旨と地域の誇り
◆基本理念
・ 危機からの救済が基本理念にあり、保護策を講じなければ崩壊、消滅して
いくものに対し、国際的に協力し合って遺産を保護していこうとするもの
です。
資金も提供されます。
・ しかし、世界遺産は観光地へのお墨付きのような風潮があることは否めず、
観光振興を目的とした運動が目立ってきたと云えます。結果、環境破壊や近
隣居住者の生活変化がマイナスに働く事態も発生しています。
・ とりわけ、自然遺産の観光客増は環境に影響しており、いろいろな制約の
必要性が議論になっています。観光客の多くは保護の理念を周知した上で
来るわけではないため、そのバランスに窮している実情があります。
◆地域の誇り
・ 一方で、地元の輝かしい歴史の再発見、景観美は「地域おこし」と比べもの
にならない活性化、生活基盤の安定をもたらしていることも見逃せません。
・ そして、建造物などの保存だけでなく、関連した産業遺産にも光を当てて
伝統の「誇り」を取り戻す運動になっているものもあります。
地域のアイデンティティーの再認識に繋がっていくと云われています。
(3)今後の課題
◆自治体の負担
・ 登録が1千件近くとなり、近年世界遺産登録へのハードルが高くなったと
云われています。
・ 価値の明確化、客観性を証明する推薦書、プレゼンの業者依頼など専門性が
強くなっており、自治体職員だけではとても対処できなくなっています。
従って、何度も登録に足踏みすると、税金で賄う費用と手間は相当なものに
なってしまいます。
◆地域の協力
・ 文化遺産は、次第に地域の文化の多様性を尊重する色彩に変化してきてい
ます。(補完するものとしての無形の芸能や祭りなど)
これを支えているのは地域社会であり、その関与が重要なテーマとなって
きてます。
・ また、既存遺産の十分な保全のためのアセスメントの必要性が、強く云われ
ています。これにも、地域社会の理解と協力がないとおぼつかなくなりま
す。
地域開発、観光開発により、価値にそぐわなくなっては遅すぎるのです。
◆南北問題
・ 登録の半数を超える欧米州とそれ以外の国(途上国)との不均衡が、ずっと
云われています。
・ 格差是正の観点から、「普遍的価値」に上記の無形文化財補完などいろい
ろ取り組んでいますが、まだまだの感はします。
・ 他にも、地域コミュニティとの関係の中で、歴史的都市、街並みの文化遺産にお
いて景観破壊とも云える高層ビル、商業開発の懸念が云われています。
・ 日本は2004年文化財保護法改正によって「文化的景観」も重要ジャンルとして
打ち立てており、その貢献度は高いのです。しかし、「白川郷」地区内の駐車場
問題が発生したり、「富士山」の場合はどこまでをその眺望範囲とするのかと
いった課題があります。
・ このように、ユネスコの理念にある「人の心に平和の砦を築く」の思想は、まだ
まだ深化途上にあると云えるのでしょう。
・ これからは、観光的な面から“よかった、よかった”だけでなく、少し客観的立場
からみていくことも必要なのかなと感じました。